平成17年 社団法人 東京建築士会
委員長 西沢 大良
平成17年 住宅建築賞作品審査総評
委 員 乾 久美子
小嶋 一浩
千葉  学
塚本 由晴
応募点数94点/入賞4点(金賞内1点)・奨励賞3点

審査総評

審査委員長 西沢大良



平成17年の住宅建築賞は、過去トップクラスの94点の応募作品に恵まれました。一次審査は2月4日に行い、審査員の協議と投票によって7作品を選び、また二次審査(現地審査)を2月28日に行い、長時間の議論と投票によって各賞を選定しました。結果として「上原の家」「茶畑の家」「ハウスフォレストリー幸手」に奨励賞を、「黒水晶の家」「物|遠近法」「調布のアパートメント」に住宅建築賞をさしあげ、「TEM」には住宅建築賞金賞をさしあげることにしました。
最後まで金賞を争ったのは「物|遠近法」「調布のアパートメント」「TEM」でした。この3点はそれぞれ傾向が異なっていますが、どれもクオリティが非常に高く、設計から施工まで、あるいは施主の暮らし方まで含めて、抜群の完成度をもっていました。
「物|遠近法」は、多摩川に沿った郊外住宅地の2区画を占める大きな住宅ですが、延160uの2LDKという、ややもすると非現実的になりかねない設定が、緻密な設計によって高いリアリティと必然性を獲得していました。南側道路に面して無窓のヴォリュームを置くという大胆な配置や、リビングのFLを多摩川の土手のGLと合致させて全開口で眺望を得るという劇的な構成、1階裏手に北庭を設けてプライヴェートな個室を面させるという無難な設定など、計画の振幅は非常に大きく、3つの部屋を異なった環境とするように建物が構成されています。各部屋の内装と調度もそれぞれ異なっており、ディテールも独創的かつ緻密です。また、実際の空間体験としても、2階の大きな歪んだスペースの面白さや、1階の方位感の消えた不思議な室内体験は、過去の本賞受賞作品のなかには例のないものであり、それをもたらした方法的な意志も特筆に値します。この大きな不思議な住宅は、昨今ハヤリのいわゆる狭小住宅に対して無言の警告を発するものであり、そうした矮小な問題設定に留まらない建築の豊かさ・可能性を思わせる作品となっています。
「調布のアパートメント」は、街道沿いの商業地と住宅地が混ざり合うエリアに建てられた集合住宅ですが、雑然とした環境にたいするそのヴォリューム設定がまず優れています。全体を2棟に分け、建物を10m四方前後のヴォリュームに抑え、2棟の向きを変えてピロティ建築とすることにより、目障りになりがちな集合住宅のヴォリュームを、周囲の雑然とした環境にうまく接地させています。また、全16戸ある住戸平面を全て異ならせるなど、画一化しがちな集合住宅とは一線を画した計画がなされています。構造計画・設備計画についても破綻が一切なく、屋内外のディテール・素材の扱い方も洗練されており、そればかりか事業計画からかかわったというその実務能力の高さについては、審査員全員が舌を巻くほどでした。さらにまた、実際の住み手の生活を見ると、たとえばhhスタイルや無印良品の家具で統一されているなど、住み手の趣味や生活様式までが驚くほど均一化ないし洗練されており、審査員の一部からもはや文化のレベルに達しているとの指摘もありました。全体計画からインテリアまで含めて、過去数年のなかでは抜群に完成度の高い、バランスのよい集合住宅となっています。
「TEM」は、都心のビルの谷間のけっして良いとは言えぬ環境のなかにつくられた、延98uの集合住宅です。というよりこれは集合住宅ではなくなりつつあるところが面白く、ほとんど別のタイプの建物に進化しつつあるところが注目に値します。たとえば道路側からこの建物を見ると、1層目が大きな引戸により、2層目が無窓のRC壁により、3層目がダブルスキンのテント膜により、各層ごとに外観の異なる建物になっていますが、それに応じて室内環境も各層ごとに異なっており、その分だけ各層の用途も変化しうるものとなっています。たとえば1階の大きな引き戸をもった土間スペースは、小店舗や倉庫やガレージのようなものとして、また2階の落ち着いたスペースは書斎や事務スペースとして、また3階の驚くべき明るいスペースはアトリエないし居住スペースとして、それぞれ使用することが可能であり、すでに通常の集合住宅の範疇を脱しつつあるものとなっています。また屋内・屋外の素材やディテールは繊細かつ大胆であり、屋外なのか屋内なのかわからないような処理が徹底されています。この小さな建物は、建物の存在から変容していくような今日的な建築のあり方を、大胆に示した作品となっています。
 以上の3点の特徴をそれぞれキャッチフレーズ風に言うと、「物|遠近法」は方法性・豊かさ、「調布のアパートメント」は洗練性・バランス感覚、「TEM」は建物の可変性・大胆さと言えるでしょう。いずれにしてもこうした質の高い建築はどれも金賞に値するものであり、そこに優劣をつけるのは容易でなく、金賞選考の議論は日付が変わるまで続きました。審査員どうしの激論の末、最終的には募集テーマであるところの「現代性」、すなわち今日の東京からしか出てこないような建築の可能性・発展性・可変性を重視して、敷地環境からビルディングタイプまでについて最も大胆に取り組んだ「TEM」にたいし、金賞をさしあげることにしました

委員長 西沢 大良


審査講評

  <住宅建築賞 金賞>        TEM   建築主 向井山 達也

施工者 ホームビルダー(株)
 aat+ヨコミゾマコト建築設計事務所 ヨコミゾマコト  構 造 鉄筋コンクリート造

 まるで倉庫のような佇まいの建築だった。鋭利な刃物のような形態に開口はなく、およそ人の住んでいる気配は感じられない。広い通りから細い道に折れて入ったその奥の敷地は、予想していたほど窮屈な場所ではなかったが、その建築の佇まいによって、高層マンションの谷間というコンテクストを強く意識させられた。スチールの引き戸を開けると、そこはトイレや浴室、2階は最小限のキッチン、そして最上階はグレーチングの床。その究極的に小さな空間、どの壁も垂直ではない空間、屋根のテント地を通して降り注ぐ柔らかな光の変化、そしてボルトやパイプの頭を潰してぬるっと仕上げた手すりや階段の接合部、こうしたすべてがこの谷間感を加速する空間の質に加担している。それは集合住宅というよりも、やはり倉庫に近い。道具としての床と設備さえあれば、倉庫にだって住める、そんな都市における居住の今日的状況をアイロニカルに表現した強度がある。だからこそ、キッチンの配置が匂わすnLDK的な構成は、避けて欲しかったとも思う。
千葉 学


  住宅建築賞       物|遠近法   建築主 吉澤 順

施工者 菅原工務店

 松畑建築事務所 松畑 強

構 造 木造一部鉄骨造

「物|遠近法」は、謎めいたタイトルを含め、ちょっと何を考えているのかよくわからない作品であった。実際の空間を体験すれば、少しは謎も晴れるかと思いきや、我々を待ちかまえていたのは、多摩川の景観を室内に引き込んだ、とてもおおらかな気積を持った空間であり、洗練された素材の扱いであり、多摩川の土手と絶妙に呼応する基壇のようなヴォリュームといった具合に、説明の不要なものばかりであった。収納の空間が多く、北側には庭も取られていて、ゆったりとした邸宅と呼べる質が備わっていた。困難な条件を克服するところが一つの見せ場になってしまっているカツカツの住宅作品が多い中で、建築的な余裕というものを感じさせる作品である。私はそこに、個人的な作り方のルールを越えた、建築の歴史的な厚みに対する作者の意識を垣間見たように思えた。そういう意識は必ずしも新鮮さを求めるものではないのかもしれないが、新しさに対しても開かれて行くことを期待したい。塚本由晴


 
<住宅建築賞>      黒水晶の家
  建築主 伊藤 寛

施工者 (株)渡辺富工務店
 伊藤寛アトリエ 伊藤 寛 構 造 鉄筋コンクリート+木造

 矩形の敷地に45度に交わる等高線が貫いている。そして勾配はかなりきつい。そうした敷地に敷地境界線と等高線から導かれる8角形を平面とする塊が突き刺さっているようという形。とても説得力がある。辺の長さが2種類あるので、みる方向によってずいぶん表情が変わり不定形な塊に見える。現地には夜訪れたのだが、プロポーションが微妙に違う開口部が全体に配置されていて、それぞれから低い色温度の光がもれでていた。迫力のある外観だ。開口部がインテリアの方向付けに徹底的な意味を与えているのだろうと期待させるに十分な姿だったのである。しかし想像とは裏腹に、開口部はインテリアにおいて以外とぞんざいに扱われていて、似たようなサイズの開口部が角度を変えながらも並置されている。つまりそれぞれの開口部の意味がつきつめられているわけではない。外形が最初に決定され、そしてそこから開口部をえぐりとる、そうした外からの操作がこの住宅の造形を決定づけた説明するならば、やはりひとつひとつの開口部に説得力のある意味を見いだすべきだと思うのだが。
乾久美子



  <住宅建築賞奨励賞> 調布のアパートメント
  建築主 石黒 善弥

施工者 (株)佐藤秀
 (有)石黒由紀建築設計事務所 石黒 由紀 構 造 混構造(鉄骨+鉄筋コンクリート))

 ピロティで持ち上げられた2つのキューブは、爽やかだった。それは工場や住宅や集合住宅、畑などがとりとめもなく混在する東京郊外の風景を前向きに肯定しているように見える。建築面積を意図的に小さくし、4層にすることで容積を稼ぐという戦略は、こうした街の密度に呼応させるという点でも共感できるものだ。近隣住民が通り抜けるための空地、ピロティという解答も、潔い。同じプランを90度回転させるだけで2つの棟を構成するのも、あまりちまちまとプランをいじらなくても十分に相互の関係や環境への応答が可能であるという設計者の自信を垣間みるようだ。とかく後追いでぞんざいに扱われがちな設備系の処理、構造計画、メゾネットによるユニットの立体的な構成、すべてにスキがない。訪れたユニットの居住者が一様にオシャレな住い方をしていることも、そんな印象を助長している。これだけ完璧だからこそ、設計者はこの先どのような展開を目論んでいるのか、集合住宅固有の課題をどう設定しているのか、もっと強く訴えて欲しいとも思った。千葉 学


  <住宅建築賞奨励賞>     上原の家   建築主 匿名希望

施工者 深澤工務店
 みかんぐみ 加茂紀和子+曽我部昌史+竹内昌義+マニュエル・タルディッツ
構 造 鉄骨造

 のびのびした空間があった。本箱と構造と外壁の組み合わせから始まったであろう空間構成がそののびやかさを獲得している。建て込んだ場所である。その中で中庭に面した吹き抜けに設けられた耐力要素の位置が絶妙で、最上階から中遠景の東京のビル群を望むことができる。それが中庭から入るというどちらかといえば窮屈な体験を払拭してこの建築の空間を都市と応答させている。訪れてみて、「整理しないこと」の意味を考えさせられた。最近の日本の建築家の住宅の設計の精緻さを、私自身は過剰な精緻さだと思っている。だから、あまり問題を突き詰めきらずにあるルースさを持ってつくろうというスタンスには共感するのだが、それでも違和感がのこってしまう部分があった。それは、「これだけは実現しよう」という問題の組立方そのものをも投げ出してしまっているように感じるからかもしれない。ミニマルな外壁処理に対する内側の素材や寸法の多様さ(あるいはバラツキ)のギャップ、本箱が構造であり中庭側はプレートで水平力を受けとめるのなら、何故道路側はブレースで良くて別棟は構造自体ぜんぜん違うのかなど、どうしても「整理しない=場当たり的でも良い」というように見えてしまうのが腑に落ちない。そこを腑に落として欲しいのである。小嶋一浩


  <住宅建築賞奨励賞>  ハウスフォレストリー幸手    建築主 鈴木章介 鈴木康之

施工者 (株)大仙
 井口浩フィフス・ワールド・アーキテクツ 井口 浩
構 造 木造

 地球と無理なく付き合うことはこれからのテーマである。だから現地審査には興味津々で望んだ。外観。なかなかいい構え。内部。空間構成は「農家」の現実を上手く反映したかっての土間のようなおおきな玄関となる温室部分が真ん中にある。普段目にする住宅とは違う構えには好感が持てる。さてテーマは、温室と落葉樹と木造家屋をくっつけたことで得られる空気の性能である。そうした空間に実際に身体を置いてみることが楽しみだった。訪れたのは晴れた日中で、室内は暖かく快適だった。冬の日中はうまくいっている。歩きながら違う季節や時間を想像する。温室の電動制御される開口部や幕はレディメードであり、動作も開け閉めしたときの性能もしっかりしている。でも本当に寒いのは冬の夜であり、そちらへは家屋2階の小窓にペアガラスを用いて対処している。となると、温室ガラスをあわせてトリプルとなり、得られるものに対して仕掛けが大げさでアンバランスではないか? そういう視点で見ると、もっと温室そのものの能力の活用方法が開発されていて欲しくなるといったら期待しすぎだろうか。小嶋一浩


  <住宅建築賞奨励賞>        茶畑の家   建築主 中込浩一

施工者 シグマ建設

 廣部剛司建築設計室 廣部剛司

構 造 壁式木質厚板構造

 木の厚板を、まるでスチレンボードで模型をつくるかのごとく、建て込んでみる。おそらく、多くの者が一度は考えてみたことがあるだろう。それをLVLで実現化した住宅である。本当に成立しているのだろうか? 書類審査で委員達が感じたのは怖いもの見たさに近い興味であったが、現地で全体の剛性を体感的に測り、十分に現実的な構造であることを理解できた。また汎用金物を駆使したディテールに、この構造形式を一回限りの特殊例に終わらせない意気込みを感じ、極限ともいえる薄さのスラブが思いのほか剛性をもちつつも、やわらかな感触を提供していることにも新鮮な驚きがあった。表現主義的ではない構造形式だけに今後の展開を感じさせる。ただおしむらくはプランニングが構造形式から乖離していることだ。不用意にあいた階段の開口部を補強するための丸鋼のテンション材が代表的な例なのだが、もしこうした構造形式の純度を下げる所作をなくし、木訥にLVLだけでできることに執着していれば、この住宅はもう少し違った姿で現れたに違いない。チャレンジングな工法だけに、残念に感じた。乾久美子