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1. 建築基準法・士法改正の動き
現在、国は審議会・調査委員会の二つで、今回の問題を緊急な課題として審議しています。
一つは、国土交通省の所管である「社会資本整備審議会・建築分科会・基本制度部会」で、主に、建築基準法と建築士法の改正で今回の問題に対応する審議会です。
二つ目は国土交通大臣の私的諮問機関として、「構造計算書偽装問題に関する緊急調査委員会」が、幅広いメンバーで構成された委員の下に、法制度だけで無く社会制度も含め日本の建築生産全体の視野から、「審議会」のこれからの議論をリードするような、建築主の責任と役割、建築物の施工段階での諸課題の検討も含め、3月に最終報告を取りまとめるとしています。
「審議会」の中間報告が1月に公表され、「建築物の安全確保のため早急に講ずべき課題」と本年秋までに「引き続き検討すべき課題」に分けて整理されました。「早急に講ずべき課題」は、既に基準法と士法改正案として国会に上程され、6月には法案が通過する予定です。
建築士会の一番の関心事である
(1)建築士制度に係る課題
1)専門分野別の建築士制度の導入、
2)建築士の能力の維持向上、
3)建築士事務所の業務の適正化、
4)工事監理業務の適正化、
5)報酬基準の見直し、
6)建築士会及び建築士事務所協会への加入の義務付け
は、6月頃まで主に審議され8月の答申にまとめられる予定です。早ければ来年度の国会で法案が審議され、その実施は早くて3年かかると予想されます。
連合会は、建築士会の意見を集約し「審議会中間報告への建築士会の見解」を取りまとめ、1月末に国土交通省住宅局へ提出したところです。(連合会HP参照)
2.「建築士会」・「連合会」の対応
また、建築関連団体の士法改正の動きとして、(財)建築技術教育普及センターが事務局を務める「建築資格制度調査会」の活動があります。連合会を含め、JIA(建築家協会)、日事連(日本建築士事務所協会連合会)、BCS(建築業協会)、建築学会が参加する通称「五会調査会」は、平成12年より議論を開始し、当初は資格の国際化対応でAPECエンジニア、アーキテクト制度を中心に議論をしてきました。
国際化対応も一段落し、昨年より「建築士法」問題を議論している途中で、今回の「偽装問題」が起こり、審議会へ向けた「建築関連団体の総意」のとりまとめが、急浮上しました。
1)専門資格(構造・設備)の導入、
2)建築士等の能力維持向上と、登録更新制度の創設、
3)管理建築士の要件整備等による建築士事務所の業務の適正化について (表−1参照)
出口の議論も十分されないまま、各団体の意見を集約して、同床異夢ながら、入口の所だけで合意しようという動きになりました。
建築士会の士法改正に対する基本的なスタンスは、「2005レポート」で記述する通り、「施工も含め多様な分野で活躍する建築士」の実態を反映するような法改正が望まれ、欧米とは異なる「アーキテクトとエンジニアが共通の基礎的な素養を身につける資格法を堅持し」、さらに「社会の多様なニーズに応える信頼に足る専門家の職能制度は民(建築士会等)が支え、官と民(法制度と職能制度)が連携する姿が望ましい」と考えてきました。
多様な意見がある中、拙速に意見を一つにまとめるより、各団体の意見の違いや実態を踏まえた長期的な議論を深めることが大事であると主張してきました。
今回の対応へ向けた建築士会の総意を確認するため、「合意文書のたたき台」及び「審議会資料」を基に、連合会は12月末から1月にかけ、7ブロックで説明会を実施し、意見を集約し「審議会中間報告への建築士会の見解」を建築指導課へ提出すると共に、「五会調査会WG委員会」でこれらの見解を主張してきました。
しかしながら、構造及び設備関連団体(6団体)の7団体が急きょ加わり、建築士会のそれまでの主張は、13団体の一つ意見として、合意文書に十分反映されること無く、合意手続きが進められ、連合会は47建築士会の議決を迫られました。3月の理事会に諮り、表−1に見られる見解の違いを飲み込み、安易に合意文書に署名捺印することは困難であるという結論に達しました。
建築士会は、業界の論理でなく、社会消費者からの視点の重視、団体の果たす役割(運動)の強化、全国一律でなく地域性を反映するような制度の有り様、努力する建築士が報われるような制度「良貨が悪貨を駆逐する」こそが、成熟した社会で求められていると考えています。
表-1 13団体の共同提案と建築士会の主張との違い比較表
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13団体の合意文書 |
共同提案と建築士会の主張との違い |
審議会中間報告への建築士会の見解 |
1.専門資格(構造及び設備)の導入
設計の高度化等に伴う専門分化の業態に対応するとともに、権限と責任の所在を明確にし、もって国民の信頼回復を図る観点から、特定の建築物に係る構造及び設備の設計及び工事監理に関し、建築士の有する現行の権限を制限し、当該設計・工事監理に係る専門資格を設ける。
この場合、設計等の統括・調整機能は建築士が担うとともに、既建築士及び既建築設備士のうち一定の基準を満たす者には、当該専門資格を付与する。
また、建築士及び専門資格者は当該設計図書等への所要の記名捺印を行う。 |
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13団体の提言
法により、特定の建築物に係る構造及び設備の設計・工事監理に係る資格を設ける。併せて、建築士の有する現行の権限を制限する。
□ 建築士会連合会の見解
●基礎的な資格者としての「建築士」の上に、意匠(設計)・構造・設備など専門分野別に高水準の専門技術者を位置づける。
●専門技術者は建築士会等の団体が行っている職能制度運営に委ねる。
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1.建築士制度に係る課題(専門分野別の建築士制 度の導入)
●今日の建築界は広範で高度な建築技術を求めており、「建築士」という一般的な資格を保有している程度では専門的業務の責任を果たし得なくなっている。
●現在の「建築士」は建築技術者の基礎的な資格としてそのまま置き、その上部に、意匠、構造、設備などの各専門分野別に高水準の専門技術者を位置づける必要がある。
●専門技術者は、建築士会、日本建築構造技術者協会等の学術・技術団体の資格制度運営にゆだね、これらの団体が行っている継続的研修制度や資格更新制度を活用することが現実的である。
●社会制度としての「専攻建築士制度」の実施団体の指定根拠を建築士法に条文化する改正を望む。 |
2.建築士等の能力維持向上と、登録更新制度の創設
建築士及び専門資格者の職業倫理の徹底及び最新の知識・技能の習得による能力の維持向上を図り、もって類似事件の抑止と建築士等に係る信頼回復を図る観点から、一定の実務実績、継続的能力開発(CPD:Continuing
Professional Development)等を要件とする免許の登録更新制度を創設する。 |
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13団体の提言
CPD等を要件とする登録更新制度を創設する
□ 建築士会連合会の見解
●登録更新制度に絡めてCPD等を義務化することは本末転倒
●建築士の実態把握のための制度は必要
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2.建築士の能力の維持向上
●建築、構造、設備関連団体において、既にCPD制度を実施しており、建築士会は2.5万名強、全体で3万名以上が自主的に実施して一定の成果をあげており、そうした団体の活動を活用すべき。
●登録更新にからめて、CPDを義務化することは、能力維持向上の目的からすると本末転倒である。「CPD=努力している建築士」を応援する施策(公共工事等での入札要件にCPD実績を要求する)を推進する方が、実効性があがる。
●建築士の実態把握の為の何らかの制度は必要。 |
3.管理建築士の要件整備等による建築士事務所等 の業務の適正化
建築士事務所の内外に対する責任体制を強化し、もって抑止と信頼回復を図る観点から、当該事務所の技術的事項を総括する管理建築士の管理・監督等業務の明確化とその要件整備を図るなど、事務所業務の適正化を行う。
管理建築士の要件として、設計・工事監理に関し資格取得後一定期間の実務経験を有していること、また、事務所の登録及びその更新時に必要な知識等の習得を求める。
構造・設備の専門分野の設計等のみ行う事務所においては、建築士事務所に準じ、専門資格者事務所登録を行うとともに専任の管理専門資格者を置く。設計元請・下請契約の書面化を義務付けるとともに、一括下請けを禁止する。
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管理建築士の要件強化は必要(共通)
□ 13団体の提言管理建築士等の更新時に必要な知識等の修得を求める。
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建築士会連合会の見解管理建築士の登録更新やCPD、指定講習等の義務化は必要ない。
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3.建築士事務所の業務の適正化
●管理建築士の要件強化は賛成。
●但し、管理建築士の登録更新や、CPD、指定講習等の義務化は必要ない。
●事務所の業務体制の情報開示は必要。
●建築士事務所協会自らが、業務体制や業務の適正な執行について、他団体と協力して運動を進めることが重要。 |
3.審議会の「引き続き検討すべき課題」に対する建築士会の見解
審議会中間報告への建築士会の見解は、先の通りでありますが、今後「審議会」や「資格制度調査会」の議論が進む中、出口の議論も踏まえ建築士会の見解を項目を絞って解説します。
(1) 専門分野別(構造・設備)の建築士制度の導入(士法改正のシナリオ)
今回の偽装事件で、何らかの専門資格を導入せざるを得ない社会的な背景があります。想定される士法改正のシナリオは以下のようなことが考えられます。

■ T案は、建築士法の建築士の役割はそのままとし、その上に、高度に発展した構造技術を担当する構造技術者を位置づけるやり方が考えられます。例えば、建築基準法上(告示)で示された確認申請の「ルート2」や「ルート3」は、高度な建築構造技術者のみが行えるとする方法があります。その構造技術者は、「建築士取得後の一定実務実績で評価する、特定の試験で考査する、両者の組み合わせなど」の方法が考えられます。 設備設計に関しては、法制化を望む背景が異なることから、建築士の業務を一部制限するのでは無く、建築設備士も設備設計・工事監理については、同じように行えるように位置づける案があります。
■ U案は、13団体の合意文書の中で試案的に想定された、「新たに構造設計、設備設計資格者を設け、建築士の業務独占の一部を制限する」案。 この案は、制限された業務に係る構造、設備設計業務を、その業務を制限された建築士が統括するという矛盾を生じることになります。また、構造技術は、建築の空間計画に深く関わり、建築士の設計業務と一体的に捉えられており、建築士が行う構造計画は、「構造資格者」の業務か建築士の業務か、その責任の範囲はどちらなのか創造的な行為に対する士法上の責任はどちらが負うのか、さらに、制限される建物はどこに境界を置くのかなど、制度設計上の困難さがあります。 建築設備技術者と構造技術者は、教育の体系が異なり、士法改正が求められている社会的状況も異なるので、U案のように一律に扱う不合理さがあります。建築設備士は、士法上の位置づけの無いまま、設備設計・工事監理という独占業務を行う違法状態にあることの問題であり、構造技術者は、高度な構造技術を担保する技能と責任が問われている違いがあります。さらに、空調・衛生設備と電気設備と異なる技術分野を背景にしている点での課題もあります。かねてより、建築士会は、設備設計の実績ある「建築設備士」の1級建築士への受験資格を軽減し、建築士の仲間として位置づけることを主張してきましたが建築設備業界は建築設備設計業務だけできるように法的に位置づけて欲しいという要望で、そこまでは望んでいないようです。
■ V案は、「建築士会」や「構造計算書偽装問題に関する緊急調査委員会」の中間答申で述べられたように、既存の建築士の上に、建築関連団体が運営している「職能制度」を活用する(例えば実施団体の指定根拠を士法に条文化するなど)案。
3案を図式化すると図2のようになります。いずれの案で構造と設備の専門家が法的に位置づけられたとしても、法制度は、「基準法の施行を担保する最低限の能力を持つ技術者」を規定するもの以上では無く、建築士会が進めている「専攻建築士制度」、多様な専門家の倫理も含めたCPDや実務実績を社会に表示する「職能制度」が社会から求められることに変わりありません。
(2) 建築士の能力の維持向上
建築士の能力の維持向上に反対する者は誰もいないと思いますが、他の団体が主張している「登録更新制」に絡めて「CPDを義務化する」ことには、建築士会は反対をしています。
指定講習は、規制緩和の流れの中で2006年度から廃止が決まり、建築士会は一遍の講習だけでない、建築士の能力の維持向上に本当に役立ち、建築士の本来使命でもある社会貢献活動なども含む「包括的なCPD制度」を4年前より開始しました。他団体へも働きかけ、規準の統一など既に社会に定着しつつある運動となっています。
登録更新制の導入は、施工分野など資格を活用しない人まで含めるのか、設計・工事監理を行う建築士に限定するのか、小さい政府が望まれている中その社会コスト負担増をどのように考えるか等の問題も議論する必要があります。
CPDを法で義務化する場合、「法は最低基準をあまねく実施することを原則としている」ので、指定講習プラスα程度のものしか法で縛ることはできず、質の高い資質向上を担保するものとは成り得ないことは、予想のつくことです。また、地域の実情にあった個性あるCPDの運営が、法という名の下で、規制される可能性もあります。
仮に、更新を設計・工事監理を行う者に限れば、その他の建築士の質の向上は図れないことになります。建築士会は、多様な分野で働く全ての建築士がCPDを実施し、建築生産に関わる全ての技術者の質の向上を目指すべきと考えています。
それ故、CPDを法で縛るより、社会に定着しつつある「団体が運営する自主的なCPD制度」を支援する方策の方が、実効性が高いと考えます。既に、「鳥取県」では、CPDを県の入札要件としており(「広島県」では本年度より実施予定)、「三重県」では、公共発注の入札参加指名事務所の調書に、CPD登録の有無と登録団体名の記入項目を新設するなど、行政がCPD制度を活用する動きが見られます。
但し、100万を超す建築士の実態が把握できない状況下では国による「建築士行政」も十分に行うことができないので、建築士の実態を把握するための行政手続きとしての制度は必要と考えます。
(3)建築士事務所の業務の適正化
管理建築士の要件強化は、全ての関連団体が賛成しています。建築士免許を取得しただけで、すぐにお金を取って仕事ができることは、プロとして社会の信頼を得られないと考えます。建築士会は、管理建築士は、事務所の技術総括者として専攻建築士並の実績が必要と考えています。しかしながら、これは職業選択の自由と規制緩和の流れを規制することなので慎重な議論も必要です。
日事連が強く主張している、「事務所の登録と更新時に、管理建築士に一定の講習を義務化させる」ことについては、Aで述べたように法で規定することには反対します。管理建築士もベースは建築士であり、民が行うCPDに参加すれば良く、規制緩和の流れの中で廃止された「指定講習」を法律で再度位置づけ直すような、時代の流れに逆行し、屋上屋を重ねる制度は必要ないと考えるからです。
日事連も、建築士会のCPD制度と連携し、事務所運営に本当に必要な「CPDプログラム」を特別認定講座として開始し、全会員のCPD参加の促進を図ることが望ましいと考えます。
何でも、法で縛って欲しいという、従来の官依存の体質から団体も脱却する時期にきているのでは無いでしょうか。
(4)建築士会及び建築士事務所協会への加入の義務づけ
建築士会は発足以来50年以上、法定団体であるにもかかわらず、会員の会費のみで自主独立の運営を行ってきた歴史があります。そうした中、今回の事件で「建築士の強制加入」の問題が議論されることになりました。強制加入は一見、建築士会を応援する様な形にも見えますが、全ての建築士が強制加入したとしても、会費納入が全て担保されるとは限りません。強制加入団体の失敗の主原因は、会費未納入の問題と聞いております。また、強制加入との引き替えに、国や都道府県からの監査や介入が強化され、全ての建築士に対する管理責任が問われ、従来地域の実情を反映した個性ある運営も規制される可能性もあります。
今回の姉歯事件のような建築士の不祥事が起きた場合、「建築士会の責任」は社会的・経済的に厳しく問われることになります。更に、建築士全てを強制加入させるだけの社会的要請も無いと考えています。
しかしながら、建築士会は、「建築士たる者は建築士会へ『当然加入』すべき」と考えています。
その他、「工事監理業務の適正化」や「報酬規準の見直し」の課題がありますが、これらは、発注者も含め日本の建築生産全体の係わりの中で議論しなければならない問題で、建築基準法と士法改正のみで片づく問題では無いと考えています。
以上は仮説も交え、「建築士制度」に最も関連の深い団体として、建築士会の考え方を解説しましたが、今後、審議会の制度設計等が具体化した時点で、更なる「建築士会の検討・意見表明など」を行う予定です。
最後に、現在進めている「CPDや専攻建築士制度」の推進とCPD登録者や専攻建築士の情報開示、それらの活用事例紹介などを積極的に推進し、社会から評価される制度として定着を図ります。
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